この胸が痛むのは

第100話

次に覚えているのは、何かを殿下が忘れると
仰っていて。


「……待って、待ってください」

殿下が何を話されていたのか、どうして覚えて
いないの?
どうして、ここに座っているの?
私は……私は何を?
貴方はクラリスを忘れると仰ったの? 

『無理してるんだよ、本当は忘れたくないのに。
 許してあげなよ、それくらい』

頭のなかの誰かが、私に囁きました。

『結婚してから浮気する男も多いのよ。
 これくらい我慢したら?』

うるさい、うるさい、黙ってて!
殿下と私の事に口を挟まないで!
だから、私は言ったのです。


どうぞ私の事は、お気になさらないで。
来年も再来年も、貴方のお心が求めるままに、と。

どうしてそんな、複雑そうな顔して微笑むの?
私は貴方を困らせているの?
何と答えれば正解だったの?
頭のなかの誰かに問いかけても、もう応えは返ってこなくて。



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