この胸が痛むのは
ゲイルには直前に伝えて欲しい事を指示しようと思っていたのです。
彼が不在の現状では、ただこの身体にクラリスが入ってくれるのを待ち、私が謝罪の言葉を思い浮かべたら、姉にはきっと伝わる筈。


「何とお美しいドレスでしょう!
 裾に行くほど濃くなるグラデーションがお見事ですわ!
 胸元のパールも上品で、アシュフォード殿下のお色ですわね。
 デビュタントの時も思っていましたが、この形は本当にお嬢様のスタイルにぴったりだと……」


ロレッタの賛辞を耳にして、素直に嬉しく思いました。
このドレスが似合う年齢にようやくなれた。
殿下の隣に立てる年齢にやっとなれたのです。
もうお待たせしなくてもいい。

私の胸は安堵と達成感と優越感と……
ですが、やはり鏡を見ることは出来なくて。


ふたりで私室を出て、姉の部屋に向かいました。
何故かまた、部屋の前の廊下でレニーが花瓶に
生けられた花を整えていました。


「さっき教えた通りにしてね」

ドレスの着付けまで楽しそうに、お化粧もヘアも手早く動いてくれていたのに。
姉の部屋に入ってからは、ロレッタは怯えているように見えました。

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