この胸が痛むのは
貴方を嗤っているのではありません、と私は口にはしませんでした。
愚弄なんてつもりもなかった。

姉が亡くなった年齢になって、私はクラリスに
追い付いた。
姉とそっくりになった私が姉のドレスを纏い、
この中に姉を迎え入れたら、貴方は喜んでくださる、と……

それが不敬ならば、どうぞ貴方の手で私を罰してください。
貴方から姉を奪ったのは私なのだから。


でも、殿下が私に怒りを見せたのは、その時だけでした。
近付いてきた殿下に手を上げられるのかと、身構えたのに。
頬に掌を優しく当てられて。


「そんなに俺が憎かった?」

「……」

「今まで悪かった……君の気持ちに気付いて
なかった。
 もう、君に近寄らない。
 俺の顔なんか見たくないよね、今度は俺が
この国を出るから、もう安心して」


……どうして、そんな事を仰るの? 
私の側から離れると……いいえ、もう貴方の側に私は要らないと仰せになって?
この国を、バロウズを出るというのは?
貴方はこの国の王族で、王弟で、公爵になられる御方。 
その貴方がこの国を出る?


「そのドレス……白いままのそのドレスを着た君の隣に立ちたかった。
 いつか来るその日をずっと支えにしてた。
 幸せな夢を見てた、受け入れてくれるまで、
ずっと待っててもいいんだと、そう夢を見せて
くれて感謝してる」

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