この胸が痛むのは
白いままのドレス?
このドレスは貴方がクラリスに贈ったドレスの筈……

私はクローゼット近くの壁に嵌め込まれていた
姿見の方へ走りました。
殿下と扉の前に居た誰かが『見るな』と、止めた声が聞こえて。
そして、私は自分の姿を見たのです。


私が着ていたのは、クラリスに贈られたドレスではなかった。
それに似せて私が染めるように注文した、あの夜のドレスでした。
殿下から聞いた話を思い出しました。


クラリスはアローズの店頭に飾られていたドレスを贈られた。
それはイライザ妃に似合うプリンセスラインの
ドレス。
だからターンをするとふわっと広がって。

だけど、このドレスは私の体型に合わせたマーメイドライン。
くるくる回っても広がらない。
似ているのは色味だけ。



いきなり様々な情景が頭のなかに溢れてきました。
あのデビュタントの夜、怖い辺境伯夫人を追い
払ってくれた殿下。
もう貴方の隣に立つ自信がないと泣き言を言った私を、根気よく殿下は慰めて、何度も愛の言葉を紡いでくださった。 

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