この胸が痛むのは

第101話 エピローグ~?side

私の家には鏡が無い。
もちろん個人としては所有している。
それはお父様が決めた。

王都の公爵邸にも、元王家直轄領のフラナガン公領のお城にも、お母様から見えるところには1枚も無かった。

それは旅先でも徹底していて、宿泊するホテルには復旧費用は請求して構わないので、必ず部屋の鏡は撤去するようにと事前に伝えていた。

お父様は自分用の浴室でのみ、鏡を使用して髭を剃っていらっしゃる。



フラナガン公爵家には鏡を置かない。
何故なら、お母様が嫌がるからだ。
お母様が嫌がる事を、お父様は絶対になさらない。


あ、あった。
唯一の例外は時折お父様の気持ちが盛り上がると、お母様に愛していると何度も言うやつ。
人前だろうと何だろうと言い出すので、お母様はそれが始まると逃げ出す。
それを追いかけてまで言い続ける。

バロウズ語だったり、帝国語だったり、リヨン語だったり、トルラキア、ラニャン……とにかく
お父様が話せる言語で愛の言葉を、抱き締めた
お母様の頭の上から雨あられと降らしている。

嫌がられているのに、それだけは止められない
ようだ。
仲が悪いよりはいいのだけれど、
『時と場所を考えてください』と、お顔を赤く
してお願いしているお母様をお気の毒に思う時も多い。


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