この胸が痛むのは
エリザベート本人に気持ちを伝えるよりも、両親から彼女の父、ヴィーゼル男爵に申し込んで貰おう。

中等部に入学したら。
俺が13、エリザは14。
エリザのデビュタントの前には、婚約を結んでしまおう。
誰かにパートナーを乞われる前に。
自分はまだ彼女をエスコート出来ないが、どうにかならないかストロノーヴァの曾祖父に相談してみて。
それでも無理なら、未だに婚約者のいない兄に
代わりを頼んで……

全ては想像であり、現実ではなかった。
全て、ノイエの頭の中にしかなかった、未来。
計画の第1歩になる筈の中等部入学式前に、
ノイエはそれを知らされた。


半年前に兄シュテファンが、自分の初恋のひと
エリザベートに婚約を申込んだ事。
身分差に遠慮して即答は出来ないと返事をした
彼女の為に、兄が両親を説得した事。
兄は公爵閣下にお願いなどせず、自分だけの力で両親を説得したのだ。


ノイエは打ちのめされた。
恥ずかしくて、変なプライドが邪魔して。
気持ちを打ち明けることさえ出来なかった。
自分だけでは何もせず、曾祖父の力を借りて、
両親を従わせようとした。



シュテファンとエリザベートが結ばれる。
頭ではわかっているのに、心がそれを拒否した。
『俺が年下だからだ』
そこに、エリザベートが出した答えを求めた。


 ◇◇◇


「お前が学院に入ってからの話だが。
 正直、きついぞ」

シュテファンからエリザベートとの婚約が成立
したと聞かされて、呆然としていたノイエに、
上機嫌な兄は話し続けた。


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