この胸が痛むのは
母の誕生日プレゼントとして、ちょっとした寸劇を披露したくらい。
幼い頃、まだエリザベートと、邪な想いもなく
抱き合うことが出来た……
幼い頃の遊び。
それでも内輪の拍手でも気分は高揚した。


中等部に入学した折りにも、エリザベートから
演劇部に誘われたのを固持していたのだ。
彼女とは必要以上に近付いてはいけない。

気持ちが溢れてしまうから。
言ってはいけない言葉を、いつか発してしまうかもしれない。
それを聞かされたエリザベートに嗤われるのならまだいい。
だが、彼女なら……
聞かされて苦しむのはエリザベートだ。
だから、離れていようと思ったのに。


「このヴァンパイア役は、貴方しか居ないの」

演じることは嫌いではなかったし、まだ中等部の2年生だ。
そこまで彼の学生生活に、両親は口出しをしてきてはいなかった。
本腰を入れて夢中にならなければ、演技をするくらい……
承諾するつもりだったのに、ノイエはあの少女を条件にすると、口に出していた。


それを聞かされたエリザベートは一瞬固まった様に見え、そして微笑んだ。


「わかりました。
 その御方が了承したら、受けてくださるのね」


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