この胸が痛むのは
ノイエからは背中を向けているアグネスの表情は見えない。

正面から殿下の、この絶望を見ても、アグネスに動きはない。
よろよろと殿下は座ったままのアグネスに近寄り彼女の頬に手を添えて、何事かを話していた。
 
するとようやく、アグネスは何かに気付いたように動きを見せた。
急に立ち上がり、壁に嵌め込まれていた姿見への方へ駆け出したのだ。
それは一瞬だった。

アグネスが呪いをかけた夜から、鏡を見ることが出来ないことをノイエは殿下に話していたので、慌ててアグネスを止めようとした殿下の手が宙を掴んで……


「見るな!見なくていい!」

それはアシュフォード殿下の魂から発された真実の叫びだった。



演じる事を選んだ日から、それはまるで背負わされた業の様にノイエから離れない。
何かの情景、誰かの言葉、溢れでた感情、それらの全てを。

まるで、次に演じる役の為に観察して、それを己の内に取り込もうとして、俯瞰している自分が
居るのだ。


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