この胸が痛むのは
その時にきっと何かあったのだろうと、約1ヶ月の休暇を終えて帰国したアシュフォードの様子
から推察していたのだった。
3年ぶりに愛しいひとに会えて笑顔満開になる筈だった彼は落ち込んでいたが、執務だけは変わらずこなしていた。

しばらくすると、週末にスローン侯爵の邸へ通うようになり、また平日も何度か侯爵の大臣執務室へ顔を出す様になっていた。
何をふたりで話しているのか知りたくて、財務事務官をしている友人に聞いてみたのだが、何の
成果も得られなかった。

『少しの時間にお越しになっているだけだろう』としか、言わない友人だったが、その表情は何故か明るくて。
3年前に財務大臣を襲った悲劇の後、侯爵と直接顔を合わせている執務室の面々は一様に沈んで居た様だったのに。

こちらには、何の用事で王弟殿下がいらっしゃるのか話したくないのがわかった。
ここからは大した情報は入手出来なかったが、
アシュフォードも元気になってきたので安心していたら、急にリヨンへ行く話になった。

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