この胸が痛むのは
「春にご結婚をされると聞いていました。
 お相手は確か……」

確か、彼女の再婚相手は15歳以上年上だと、聞いた。


「……ご存じですわね。
 私は春に結婚するのが夢だと、何度かお話し
しましたものね?」


春に結婚するのが夢だと、かつてリリアンが言ったから。
レイノルドはそれに同意して。
……そして約束を破った。

慌ただしい秋の結婚式だった。
1ヶ月後に彼女を置いて、彼は異国へ旅立った。
……弾む心を見せないようにしながらだったが、恐らく彼女にはお見通しだった。

だから、翌年夏にバロウズ新国王陛下の即位式
で一時帰国した際には、
『このままリヨンに戻らないで』と言われて、
考える振りもせずに無理だと返事をしたら、
リリアンは何も話さなくなった。
そして、それからは子作りを拒否されたのだ。


その一度だけしか、彼女は懇願しなかった。
その一度だけを、彼は断った。
彼女は実家に戻り、離婚の手続きを始めた。


秋になり、母からの手紙がリヨンのレイノルドに届けられた。
中身はリリアンからの離婚申し立て書だった。
レイノルドは必要事項を書き込んでサインをして母に送り返した。
もう、リリアンは手紙さえ。
直接に彼に送ろうとはしなかった。

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