この胸が痛むのは
「たまにアシュフォード殿下から便りをいただいていてね?
 今はリヨンにおられるんだったよね?」

「……はい、その様に伺っております」

「またお会いしたいと、お伝え願えるかな?
 もちろん、君も是非」

「はい、その時はどうぞよろしくお願い致します」


さりげなくノイエがアグネスから離れたので、
ミハンはアグネスに聞いてみた。


「……何か、話があるのではないの、僕に」

「……」

「ノイエから君が僕に会いたがっていると、今朝聞いて」

「……」

「今度ゆっくり、邸に来て貰えたら」


どうしたのだろう、自分が知っていると思って
いたアグネスという少女は、こんな感じだった
だろうか。

確かに口に出せない何かを抱えていた様なところも見られたが、比較的自分には話してくれていたと、思えたのに。


「……一昨年、姉が、クラリスが亡くなりました」
 

アグネスの姉が死んだ?
クラリス・スローンだ、彼女が死んだ?


今の今まで、特に思い出しもしなかったのに。
これからも特に思い出しもしないだろう名前だったのに。

その姿が一瞬で、鮮やかに甦ってきた。
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