この胸が痛むのは
─ふたりが知り合ったのは運命で、真実の愛なの     です─

アドリアナが遺した遺書にはそう、綴られていた。
確かに運命だったのかもしれない。


アドリアナが死を選び。
ミハンは生きながら、死んだも同然になった。
彼はもう誰も愛さないと決めたのだから。


友人に誘われて観に行った帝国歌劇場で、ふたりの席は隣同士になった。
人気の演目で、ボックス席が取れなくて、数少ない1階席の当日券を手に入れての観劇だった。

隣に座った少し年下のような女性から、横顔に
熱い視線を送られても、ミハンは特になんとも
思わなかった。

彼の黒髪と赤い瞳は、一部の女性の何かを掻き立てるようで、少年の頃からこの視線で見つめられるのに慣れていたからだ。

女性の隣にも同じ様に若い女性が座っていて、
観劇後に向こうから声をかけてきたら。
友人も満更でもないと視線で伝えてきたら。

4人でなら。
遅い夕食なり、酒なり、そしてその先の一夜の
恋も。
女性の方から声をかけて来たのなら。
こちらには何の責任もなく楽しめる。

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