この胸が痛むのは
それはミハンにとって特別な事でもなく、これ
までに何度もあった事だ。

留学が終わり、母国へ帰れば……
自分は誰かと縁組みをして結婚するだろう。
公爵家の嫁に相応しい家門の誰かと。
誰でも良かった、心にいつまでも居る彼女以外の女性なら、誰でも同じだったからだ。

だが、隣の座席の彼女達から声をかけられる事もなく、それを別に残念に思う事もなく。
行きは友人が迎えに来てくれたので、帰りに
ミハンは彼を自宅まで送り、帝都ボーヘンの
ストロノーヴァの邸へ帰った。


出会いはそれだけで終わり、彼は彼女の顔も忘れていた。
ところが2週間が過ぎた頃、あの夜一緒にいた
友人から耳打ちされた。
『今日も居る』と。


少し大袈裟に身を震わせて『恐ろしい女だ』と、彼は言った。
この時点で、まだ友人は笑っていた。


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