この胸が痛むのは
そんな魔窟に、アグネスを招き入れるのは早過ぎる。
一時の感情ではない、と言いきれるのなら。
俺はその日までに力を付けるのだ。
スローン侯爵にも、クラリスにも。 
納得させられるだけの力を。



不思議なことに、侯爵は夜会についてクラリスの協力を了承してくれた。
俺達はクラリスを利用しようとしたのに、どうしてなのか。

侯爵が別件で席を外したので、クラリスに尋ねてみた。


「殿下が覚悟を決められたからでしょうね」

「……」

「お顔が、変わりました。
 私に丸投げするのではなく、共に乗り切る覚悟を持たれたから、ですわね」

「君は……何か凄いね」

「弟のプレストンは幼い頃、とても体が弱くて、無事に育つのか危ぶまれておりましたの。
 その分、私は覚悟と言うものを教え込まれて
いましたから。
 環境がひとを作るのです」

「……君は覚悟を持って、この家を出る?」


俺が小声でそう尋ねると、クラリスはすっと背筋を伸ばした。
やはり、アグネスはこのクラリスに憧れて。
仕草も、何もかも、真似ていたのだ。


「私もこう見えて、乙女なのです。
 覚悟を持って、恋する男性を追いかけたいのです」

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