この胸が痛むのは
そう思って。
そう思いたくて。



「こっ、こ、この女は誰なのです?」


怒りに震えながら、アドリアナがアーグネシュを指差した。
彼女の声を聞いたのも、初めてだった。

また、ストロノーヴァの邸からここまで付けてきたのか?
ルカスの代わりに迎えに行き、エスコートをする姿を見て、アーグネシュを誤解したか?
そもそも、どうして君にそんなことを聞く権利が?

最初の驚愕が過ぎると、次に怒りが沸いた。
こっちのテリトリーに侵入してきたアドリアナと。
それ以上に、こうなるまで放置していた自分にも。


「わ、私とっ!
 私というものがあり、ながらっ!」

勝手に誤解し興奮した、全くの無関係の女から
責められているのだが。
周囲から見たら、俺はまるで浮気の現場を押さえられた男だなと、顔を赤くして吃るアドリアナを見ていると、少し頭が冷えた。
怒りからおかしさに気持ちが揺れた。
それが却って悪かったのだろう。
次に頭を占めたのは。

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