この胸が痛むのは
『今まで見逃してやっていたのに、こんな所に
まで追いかけて来るなんて。
 温情などをかけるべきじゃなかった』


アーグネシュとふたりきりなのは、何年振りかとミハンは思っていた。
アーグネシュとの貴重な時間を潰されたと、
アドリアナにはその腹立ちも込めて、きつい
言い方をしたのだと、今ならよくわかる。


だがその時は、加虐心に火が点いた。


「私というものがありながらと仰る、貴女は
どこの誰なのです?
 まず名乗っていただけますか?
 私とは初対面ですよね?
 このひとの事なら私の大切なひと、ですが」

それを聞いたアドリアナの顔色は、怒りの赤から。
血の気が引いていくのが、わかった。


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