この胸が痛むのは
話したいのに、隠したい。
まだ、全部話せないから、そこに触れられそうになると、声の高低や強弱が変わっていた。
自分に同調させようと、術者のアーグネシュに
無意識に働きかけていた。

離れたところから催眠術の様子を見ていたミハンには、アグネスがアーグネシュの力量を測って
いるようにも見えて、これは考えていたよりも
難しいなと、感じた。
それとなく、殿下には注意をしておいた方がいいかもしれない。


「今夜はこちらで晩餐をと、お誘いした。
 ルカも呼んで、君も同席してくれるかな?」

「……いえ、今日は些か疲れてしまいましたの。
 殿下のお戻りを待って、少ししたらお暇致しますので」

「そうか、ではまた、別の機会に。
 ルカと3人で食事をしよう」


当代、次代と、王弟殿下、皆が顔を合わせての
晩餐会は、疲れている心身には堪えるだろうと、彼女に無理強いはしたくなかった。


当然、アーグネシュの夫である幼馴染みのルカスには了承を得て、今日はここに来て貰った。 
妖しげな催眠術の舞台装置や、アグネスに了承
させる為の小芝居も、当のアーグネシュよりも
ルカスの方が色々と質問をして、計画に乗って
いた。


先週、アシュフォードから話を聞いたミハンは
イェニィ伯爵家に、ルカスが在宅中か確認して、相談に行ったのだ。


 ◇◇◇


「催眠術と仰ったの?」

ミハンの頼みにイェニィ・アーグネシュの声は 硬かった。


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