この胸が痛むのは
しかし彼女を見たら普段のままの落ち着いた表情なので安心した。
この女はやはり度胸がある、俺よりも。
これならクジラに呑まれることはない。


「ようこそ、お越しくださいました。
 拙いもてなししか出来ず、お恥ずかしい限りでございますが、お楽しみいただけますよう勤めさせていただきます」

そう上っ面なセリフと得意の(胡散臭くて、心がこもっていないとレイから評された) 笑顔で、
クジラに挨拶をする。
そしてそのまま、傍らのクラリスを王女に紹介した。


「こちらは私のパートナーです。
 学園の同級で、親しくさせていただいている
クラリス・スローン侯爵令嬢です」

それに併せて、クラリスが完璧に王族相手の最上級カーテシーを決める。


「スローンに、ございます。
 王女殿下におかれましては、以後お見知りおきを……」

「彼女のお父様は財務大臣をなさっていて」 

王妃陛下が言いたかっただろうセリフを、クラリスの挨拶が終わる前に、王太子妃がクジラにご注進した。
義姉上もフォンティーヌの魅力にやられるタイプだったとは。
< 94 / 722 >

この作品をシェア

pagetop