この胸が痛むのは
王女が泣いてたから?
そんな事は俺には関係ない、俺が泣かせたんじゃない。
噂は噂でしか、って。
こっちは情報提供のつもりで、聞いた話をしただけだ。

そりゃ、ちょっとは誇張したかも知れない。
でも、世界中で知られてる噂だ。
お前だって
『あの王女ですよ? 報酬は?』なんて言ってたじゃないか。 

何で? 何で! 自分だけそんな話してません、
みたいな顔して!
そんな……アグネスにそっくりな顔で。
俺を責めるように見て……


「ちょ、ちょ、あっちに移動しよう」

俺達のバチバチの雰囲気を察したレイが俺の背中を押した。
いくら親しくても女性に触れるのは躊躇われるのか、クラリスには身振りで誘う。
だが、クラリスは動かない。


「私はフォンティーヌ王女とお話をしてきますね。
 あちらでは皆様、楽しそうですもの」

「おい、勝手に動くなよ」

レイが場所を変えて気を落ち着かせようとしてくれてるんだぞ。

< 99 / 722 >

この作品をシェア

pagetop