エリート国際弁護士に愛されてますが、身ごもるわけにはいきません

けれど、瑠衣は弁護士にはならなかった。他にもっとやりたい仕事があったからだ。

「もちろん、これは強制ではないよ。事務所を継ぐのも娘との結婚も、断ったからといって君の今後になにか不利益もない。ただ、僕の希望を伝えておきたかったんだ」

そう言った英利は、ひとつ大きく息を吐いた。

「瑠衣」

名前を呼ばれて顔を上げると、いつもの優しい父親の顔になっていた。

「驚かせて悪かった。だけど、娘はできれば信頼できる人間に託したいと思ってね」
「だからって……」

父の言い分を理解できても、はいそうですかと納得するわけにはいかない。

反論しようとした瑠衣の言葉を遮るように、大和が立ち上がった。

「先生、お話はわかりました。瑠衣さんとふたりで話をしてからお返事をしても?」
「えっ?」

すぐに断るだろうと思っていた瑠衣は、声を上げて隣の大和を見上げた。

「もちろんだ。よく考えてからでいい」
「では、少しの時間、瑠衣さんをお借りします。遅くならないうちに送り届けますので」
「わかった。よろしく頼むよ」

< 10 / 200 >

この作品をシェア

pagetop