エリート国際弁護士に愛されてますが、身ごもるわけにはいきません

「あ、孝宏?」

瑠衣が応えると、彼は嬉しそうに大きく頷いた。

「久しぶり。卒業以来か」

佐藤孝弘は、瑠衣の大学時代の同級生。友達の紹介で知り合った彼は気さくで誰とでも仲良くなれるタイプで、学部も違うし特に共通の趣味などがあったわけではないが、いつの間にか親しくなった。

出会って半年ほど経った頃、佐藤から『俺たち、付き合ってみない?』とフランクに誘われ、一緒にいるのが楽しかった瑠衣はさほど悩まずにその提案を受け入れた。

授業やバイトの合間にするデートは楽しかったし、互いの誕生日、クリスマス、バレンタインとひと通りのイベントを経験したが、はじまりと同様、終わる時もあっさりしていた。

『なんかさ。俺ら、友達の距離の方がしっくりくる?』
『うん。そんな気がする』

決して嫌いになったとか、そういうわけではなかったけれど、互いに〝これが恋だ〟と思えるほど情熱がなかったように思う。

キスもそれ以上もしていたけれど、友人に対する感情となにが違うのかと聞かれれば、答えに窮してしまう程度の想いだった。

付き合っていた期間は約一年。大学三年になって就活が始まると自然と会える頻度が減っていき、それなら友達に戻ろうと円満に交際を解消したのに後悔も未練もない。

大学在学中は顔を合わせれば話もしたが、卒業してからは連絡を取ることもなくなっていた。

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