エリート国際弁護士に愛されてますが、身ごもるわけにはいきません
彼の様子がおかしいと感じたのは、帰宅後の夕食の時。
いつもならば、おかずに手を伸ばすたびに褒め言葉をくれる大和が、無言で心ここにあらずの状態で食事をしていた。
そんなことは、彼が瑠衣の実家に呼ばれて一緒に食事をしていた頃から一度もない。
「大和さん、お疲れですか?」
「ごめん。大丈夫」
「なにかあったんですか? その、職場とかで」
「いや、なにもないよ」
取り繕うような笑顔を向けられ、瑠衣の心に根付いた不安の種が芽吹く。
今日の仕事中、同じ宿泊部に在籍するドアマンの同僚男性から、あるお客様が〝タカギ〟という女性スタッフを探していると聞かされた。
『宿泊部に〝タカギ〟なんて名字の女性スタッフ、いないよな?』
『う、うん。聞いたことない。そのタカギさんを探してたお客様って?』
『フロントスタッフにはいないって答えたらすぐにどっか行っちゃって名前聞けなかったけど、すげぇ迫力のある美人だった』
それだけで、瑠衣は沙良だと確信した。
彼女がフロントで如月法律事務所への行き方を聞いたのは二日前。
きっと事務所に行った際、大和がアナスタシアのスタッフと結婚したと聞いたのだろう。それで妻となった女性を見に来たに違いない。