エリート国際弁護士に愛されてますが、身ごもるわけにはいきません
瑠衣は風呂から出て髪を乾かし終えると、自室に入り、通勤に使っているバッグから小さなポーチを取り出した。
先月婦人科で処方してもらった低用量ピルは、生理がきた日から毎日一錠決まった時間に飲むようにと指示されている。
瑠衣の自室に大和が入ることはないとはいえ、家に置いておくのは不安で、常に肌身離さず持ち歩いていた。
人よりも生理痛の重い瑠衣にとってPMSの緩和にも繋がる薬だが、気持ちの上では避妊薬として服用している。
飲み始めて一週間、大和に黙って勝手に避妊している罪悪感は日に日に増していく。
けれど大和の未来を思うと、いつまでも日本に縛りつけていていいのかと疑念が沸くのを止められない。
大和が好きだし、ずっと一緒にいたいと思っている。
突然提案された結婚だったにも関わらず、彼も瑠衣を大事にしてくれていると実感できるし、実際、瑠衣が『いつかまた、アメリカで彼らと一緒に働きたいですか?』と聞いても、『ここには瑠衣がいるし、守るべきものがあるから』と首を横に振った。
このまま事務所の後継者をつくるという義務感で子供ができれば、大和はこの先一生、如月法律事務所を背負って生きていく道を辿ることになる。
果たして、本当に彼はそれでいいのだろうか。
学生時代から抜きん出て優秀で、今も難しい案件をいくつも抱えて海外を飛び回っている国際弁護士の大和は、その将来図に満足しているのだろうか。
恩師である瑠衣の父へ恩返しになると事務所を継ぐのを了承したけれど、それがなければ、いずれ海外を拠点に活動する気がなかったとは言い切れないはずだ。