エリート国際弁護士に愛されてますが、身ごもるわけにはいきません
大和は優しい振る舞いや家事を率先してやってくれることから、きっと素晴らしい父親になるだろうし、今では瑠衣も跡継ぎなどとは関係なく、いずれは彼との子供がほしいと感じている。
愛する人との子供を一緒に育てていくのは、きっとなにより幸せで愛しい時間になる。
それならば、どうして後ろめたさを感じながら避妊し続ける必要があるのだろう。
そう唆すもうひとりの自分の声は日に日に大きくなり、瑠衣を苦しめる。
(……違う、そうじゃなくて。ちゃんと彼に選択肢をあげたい。子供ができてしまえば、もう選べる道はひとつしかなくなっちゃうんだから)
今、結婚して一年も満たない時に聞いたとしても、大和は英利への恩義から瑠衣との結婚を取りやめたりはしないはずだ。
それならば、やはり一年瑠衣が妊娠せず、子供を授かりづらい体質かもしれないと大和と父に告げる時が勝負だ。
瑠衣が後継者を産めないとなれば、この結婚も意味がなくなり、離婚だってあり得る。
もしかしたら大和が事務所を継ぐ話自体もなくなるかもしれない。
自分から別れを告げられないから、そうなるように仕向けるだなんて、大人の考えることではないし、そもそもこの思考に大和の意志は一切加味されていない。
大和がどう思っているかも、英利の思惑や事務所の経営についてだって、瑠衣はなにも知らない。
それでも哀れなほどひたむきに、大和の将来を守ろうと必死だった。
自分勝手な悪魔の囁きから逃れるようにブンブンと首を振ると、包装シートから今日の分を一錠取り出し、湧き上がりそうになるズルい感情と一緒に飲み込んだ。