エリート国際弁護士に愛されてますが、身ごもるわけにはいきません
電話の向こうで彼がどんな表情をしているのかが想像できて、瑠衣は見えないとわかりつつも首を横に振った。
「カッコ悪くなんてないよ。私こそ、孝弘の会社の事情とかなにも知らないのに、この前は無神経なこと言ってごめん」
「……無神経なことなんて言われたか?」
「『流されてみるのも悪くない』とか『意外と自分でも思いがけないことがうまくいったりする』とか、他人が無責任に口を挟む話じゃなかったって思って。孝弘は自分の会社のことで真剣に悩んでるのに……軽率だった」
彼の会社の事情を詳しく聞こうとは思わないけれど、従業員を背負う社長としての悩みと自分の結婚話を同じ括りにして、知ったように話したのは思慮に欠けていた。
そう思って瑠衣が真摯に謝ると、孝弘は「そういうところ」と呟いた。
「瑠衣のそういうところ、いいなって学生時代から思ってた」
「え?」
「自分が悪いと思ったらすぐに非を認めて素直に謝れるところ」
「……そんなの普通じゃない?」
悪いことをしたら謝る。きっと幼稚園児だって知ってる常識だ。
「大人になると普通のことが難しくなったりするだろ。嬉しかったら素直に喜んだり、困ってる人がいれば声をかけたり、瑠衣はそういう人として当たり前のことを当たり前のようにできる子だった。だから一緒にいて居心地がよかった。ただ、あの頃は俺もまだガキだったから、瑠衣のそういういいところをわかってたのに、恋愛ってもっと違うんじゃないかって思って……もったいないことしたよ」
「孝弘……」