エリート国際弁護士に愛されてますが、身ごもるわけにはいきません

すると彼は近くにあったベンチに瑠衣を座らせると、自動販売機で冷たいお茶を二本買い、一本をこちらに差し出してから自らも隣に腰を下ろした。

瑠衣は礼を言って受け取り、キャップを開けて中身をひと口飲む。

蒸し暑さと驚きの連続で喉が乾いていたらしく、そのまま三分の一ほど飲んだところで、大和に話の続きを促した。

「如月家は、俺の理想なんだ」

そう話しだした大和は、開いた両膝に肘を乗せ、前傾姿勢で前を見ながら続けた。

「俺の両親は昔から互いに愛人がいるような冷めた夫婦で、顔を合わせればケンカしていた。ようやく離婚した時はホッとしたのと同時に、自分の存在くらいではふたりの仲を元に戻すことはできないんだと虚しくも感じた」

はじめて聞く大和の家庭環境に衝撃を受けながら、瑠衣は口を挟まずに耳を傾けた。

「だから子供の頃から結婚に夢を持てなかったし、いつか子供がほしいと思ったこともない。そんな時、先生に会ったんだ。フラフラしてた俺に、外部講師として高校に講義をしにきていた先生が俺にこう言った。『無意味に時間を無駄にするくらいなら、暇つぶしに司法試験でも受けてみたらどうだい』ってね」

『発想の転換こそ、物事をうまく運ぶ秘訣だ』とは父の口癖で、瑠衣は幼い頃から何度も聞いてきた。

勉強がうまく捗らない時は『たまには学校を休んで遊びに行こう』と、本人も仕事そっちのけで平日の朝から遊園地へ連れて行ったり、幼い顔立ちを悩んでいると『その分中身が大人になるように』と、休日の公園へゲートボールをするお年寄りの集まりに参加させたり。

彼が妻の依子とケンカした時には、謝るよりも笑わせようとの計らいで、突如オムライスを作り始め、ケチャップで『よっぴーだいすき』と、普段呼んだこともないニックネームを書いていた。

結果、瑠衣は気分転換になってテストの点が上がったり、いつかは老いるのだから気にしないようにと吹っ切れたり、母は呆れて怒るのをやめてしまったりと、いい方向に向かうのだが。

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