エリート国際弁護士に愛されてますが、身ごもるわけにはいきません
「先週突然事務所に来て、アメリカに戻るべきだと言い張ってたけど、ハッキリ断ったよ。まさか瑠衣のところにまで行くなんて予想外だ。悪かった」
「いえ、謝らないでください。井口様、私たちが政略結婚だって聞いたみたいなので、大和さんを日本に縛りつけている妻にひと言言いたかったんだと思います。わざわざアメリカから来るくらいですから、本当に大和さんを忘れられずにいたんでしょうし……」
優しい瑠衣はやるせなさそうに口籠るが、大和はそうは思わない。自由恋愛主義で奔放な沙良はそんな殊勝な女性ではなかったはずだ。
長期休暇で日本へ遊びに行くと決めた時、過去にモノにできなかった男が日本人だと思い出したといったところだろう。
「井口がなにを思っていようと、俺は彼女に興味はないし、アメリカへ渡る気もない」
そう言う大和に、瑠衣も躊躇いがちに頷いた。
あの時きっぱり断ったつもりだったが、諦めていなかったのか、それとも政略結婚だと聞き、まだ望みはあると思い返したのか。
どちらにしろ、もう一度顔を合わせて話し、二度とこうしたことが起こらないようにしなくては。
大和はスマホを取り出すと、用件だけを簡潔に打ち込んで送信した。
「瑠衣、他には? もう抱えてるものはない? 不安も不満も、全部聞かせてほしい」
「いえ。もうなにもないです。大和さんの気持ちも聞けて、胸がいっぱいで……」
「じゃあ、続きをしてもいい?」