エリート国際弁護士に愛されてますが、身ごもるわけにはいきません
しかし沙良はふたりきりではないのが不服らしく、美麗な顔を歪めて大和を見つめている。
彼はそんな沙良のクレームを取り合わず、用件だけをきっぱりと言葉にした。
「先日も言ったが、俺はアメリカへ行く気はないし、未練もない。今後、彼女に誤解を招くような話をするのはやめてくれ」
自分と話す時とはまったく違う低く冷徹な声音に、隣にいた瑠衣は小さく息を呑んだが、沙良は怯まずに言い返す。
「どうして? せっかくカリフォルニア州の弁護士資格も取ったのに。確かにあなたのいる事務所は日本では比較的大手のようだけど、扱う案件も、手に入れられる金額や名誉も、こっちとは雲泥の差があるわ」
瑠衣は口を挟まずにふたりのやりとりを聞いていた。彼女の言う通りだと思っていたからこそ、瑠衣も悩んでいたのだ。
大和のためを思いながらも、彼の気持ちをまるっきり無視して突っ走っていた。まさに、目の前にいる沙良と同じように。
アメリカへ行く気はないと言った大和の言葉を信じきれず、選択肢を与え、背中を押してあげるのが自分の役目と盲信していた。
きちんと腰を据えて話したことで、それは大和の望むものとは違うのだと、ようやくわかった。
我に返ると、暴走していたのがとても恥ずかしく感じる。
しかし、沙良はいまだに大和がアメリカで活躍するのが最善だと疑っていない。