エリート国際弁護士に愛されてますが、身ごもるわけにはいきません

「どうぞ、入って」
「お、お邪魔します」

玄関に入ってパンプスを脱いで揃えると、大和が出してくれたスリッパを履いて彼のあとに続く。

廊下を進んだ奥の正面と左に部屋のドアがあり、右側には三十畳はありそうな広々としたリビングダイニング。二面の窓からは周囲の同じような高層マンションがいくつも見える。

天板がガラスのダイニングテーブルにブラックの椅子、ソファも黒い革製のもので、その前に置かれているローテーブルも黒。

フローリングは白い木材で、窓からは十分すぎるほどの光が差し込むため暗くはないが、ソファ周辺は黒のラグが敷かれており、全体的にシックでスタイリッシュなインテリアは大和の雰囲気にぴったりだと言える。

唯一にして最大の想定外といえば、ダイニングテーブルやローテーブル、果てはソファやその周辺の床にまで積み上がった本の数々。

縦横無尽に動いている黒くて丸いお掃除ロボットが、崩れた本の山に激突し、ゴンゴンと怒ったような音を立てている。

決して不衛生な訳ではないが、多少乱雑という印象で、いつだって完璧な大和のイメージとはかけ離れた部屋だった。

「あー、ごめん。引いてる?」
「え?」
「片付けようとも思ったんだけど、なんだか騙すみたいで。そのままを知ってもらった方がいいかと思ったんだ。……見ての通り、整理整頓がすこぶる苦手で」

怒られた子犬のような表情で白状する大和の言動が新鮮で、呆気にとられていた瑠衣は思わず声を出して笑ってしまった。

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