エリート国際弁護士に愛されてますが、身ごもるわけにはいきません
「他に部屋は三つ。さっきのドアの左側が一番大きな部屋で寝室として使ってる。廊下の正面は書斎、仕事部屋かな。玄関入ってすぐの右手にもうひとつ部屋があって、そこが余ってるんだ」
「あの、こんなに広いマンションにひとりで?」
疑問に思って尋ねると、彼はなんでもないことのように答えた。
「身内の恥を晒すようだけど、母が資産家の家系でね。離婚後、引き取らない代わりに莫大な教育費を振り込まれたんだ。それを元手に投資で増やして、留学から帰国する時にこのマンションを買ったんだ」
「そう、だったんですね」
結婚を決めた時、大和の両親が離婚していたのは聞いていたけれど、思っていた以上に冷めた関係性なようだ。
両親はもちろん、祖父母が健在の頃は全員揃って食事をとるのが日常で、家族というものがそばにいるのが当然という環境で育った瑠衣にとって、かなりショッキングな話だった。
「両親とも今はそれぞれに家庭があるらしいし、電話で一応結婚の報告はしておいたから、瑠衣は気にしなくて大丈夫」
「ご挨拶にいかなくても?」
「うん、勝手にしろって言われて終わるだろうから」
それより、と大和は話題を変えた。
「このマンションで暮らすのはどうかな。気に入らなければ、別に新居を構えてもいいし」
「い、いえ! 十分すぎます!」
「そう? じゃあ、足りないものや変えたい家具なんかも見に行こうか。瑠衣の部屋も整えたいし。さすがに新婚夫婦が暮らすのに、このリビングはないだろ? 瑠衣の好きなインテリアに変えていこう」
全体的に黒で揃えられた部屋はスタイリッシュでモデルルームみたいではあるものの硬質で、〝新婚〟や〝家族〟というワードからイメージされる温かみや柔らかい雰囲気とは駆け離れている。