エリート国際弁護士に愛されてますが、身ごもるわけにはいきません
「すみません、お待たせしました」
「大丈夫、俺も今来たところ」
大和と待ち合わせしたのは、乗降者数日本一を誇るターミナル駅の改札前。平日の午後六時、帰宅ラッシュと重なり、多くの人が行き交っている。
そんな中でも、駅の壁面を背にし、スマホを片手に立つ長身の大和はとても人目を惹く。
満員電車を降りると、あまりの人の多さに、これでは大和と落ち合うのに一苦労だと思っていたけれど、改札を出てすぐに彼を見つけられた。
瑠衣は休みだったが、仕事だった大和は夏でもワイシャツにネクタイを締めたスーツ姿。
弁護士といえば、よくドラマでひまわりと天秤をモチーフにした金色のバッジをつけて登場するが、実際は基本的に身に着けずに財布などに入れている人が多く、大和の襟元にもバッジはついていない。
圧倒的なオーラを放っている彼が、瑠衣の手元に目を落とした。その視線は、赤い花の刺繍が施されたパスケースに縫い留められている。
約十年ほど前、瑠衣が高校受験に合格した際、彼がプレゼントしてくれたものだ。
「……覚えて、ますか?」
恐る恐る尋ねると、大和は驚いた表情を隠しもしないで瑠衣を見つめた後、「もちろん」と呟いた。