エリート国際弁護士に愛されてますが、身ごもるわけにはいきません
時は四ヶ月ほど前に遡る。
「娘と結婚して、事務所を継いでくれないか」
瑠衣の父である如月英利が言い出したのは、気象庁から梅雨入りが発表された一週間ほど後のことだった。
早番の仕事を終え、午後六時には帰宅していた瑠衣が、母の依子と共にキッチンに立っていたところに、英利から『高城くんを連れて帰る』と連絡があった。
父が部下を食事に招くのはよくあることなので慌てはしないが、瑠衣はなんとなくそわそわと落ち着かなくなる。
法律事務所を経営している父と専業主婦の母、ひとり娘の瑠衣、そして客としてやってくる父の部下、高城大和の四人分の食事が出来上がった頃、玄関の扉が開く音がした。
ふたりを出迎え、ウォールナット無垢材の大きなダイニングテーブルで和やかに食事を終えた後、話があると改まって切り出した父の言葉を聞き、瑠衣は驚きに固まった。
(なんて言った? 結婚? 誰と誰が……?)
英利の目は見開く娘を視界に入れながらも、問いかけは瑠衣でなく大和に向けられている。
「どういうことでしょう?」
隣から発された、静かだがよく響く低音の声に動揺の色が滲んでいる。彼もまた初耳なのだろうと知れた。
瑠衣は斜め前の席に座る父から、隣の大和に視線を移した。