エリート国際弁護士に愛されてますが、身ごもるわけにはいきません

時は四ヶ月ほど前に遡る。

「娘と結婚して、事務所を継いでくれないか」

瑠衣の父である如月英利が言い出したのは、気象庁から梅雨入りが発表された一週間ほど後のことだった。

早番の仕事を終え、午後六時には帰宅していた瑠衣が、母の依子と共にキッチンに立っていたところに、英利から『高城くんを連れて帰る』と連絡があった。

父が部下を食事に招くのはよくあることなので慌てはしないが、瑠衣はなんとなくそわそわと落ち着かなくなる。

法律事務所を経営している父と専業主婦の母、ひとり娘の瑠衣、そして客としてやってくる父の部下、高城大和の四人分の食事が出来上がった頃、玄関の扉が開く音がした。

ふたりを出迎え、ウォールナット無垢材の大きなダイニングテーブルで和やかに食事を終えた後、話があると改まって切り出した父の言葉を聞き、瑠衣は驚きに固まった。

(なんて言った? 結婚? 誰と誰が……?)

英利の目は見開く娘を視界に入れながらも、問いかけは瑠衣でなく大和に向けられている。

「どういうことでしょう?」

隣から発された、静かだがよく響く低音の声に動揺の色が滲んでいる。彼もまた初耳なのだろうと知れた。

瑠衣は斜め前の席に座る父から、隣の大和に視線を移した。

< 6 / 200 >

この作品をシェア

pagetop