エリート国際弁護士に愛されてますが、身ごもるわけにはいきません
スラリとした長身に小顔で鮮やかなレッドブラウンのショートヘアがクールな印象の美人で、ざっくりとした黒のニットに細身のパンツスタイルがとても良く似合っている。
カジュアルになりそうな装いを、足元の高ヒールのパンプスと大ぶりなピアス、手にしているひと目で高級ブランドのものだとわかるショルダーバッグで格上げし、なにより自信に満ち溢れた彼女の雰囲気で、ラグジュアリーホテルに相応しい佇まいだ。
「井口様、如月法律事務所への行き方でございますね」
瑠衣は驚いた感情を表に出さぬよう、地下鉄の場所から駅名、出口の番号、そこから徒歩二分で着く旨を口頭で説明しながら、周辺の地図も手渡した。
「タクシーも手配できますが、いかが致しますか?」
「いいえ、久しぶりの日本なの。せっかくなら車に乗らずに堪能したいわ」
久しぶりの日本で法律事務所?と疑問はあったが、もちろん顔には出さない。目の前の沙良は笑顔で前髪をかき上げながら話を続けた。
「それに、ゆっくり歩きたい気分なの。忘れられない人に会いに来たんだけど、驚かせたくて内緒で来ちゃったから少しドキドキしてて。あぁ、ついでにこの辺りで雰囲気のいいレストランも教えてもらえる?」
「かしこまりました」
彼女のような美人にも忘れられない昔の恋人がいるのだろうかと頭の隅で思いながら、ホテル内のレストランと、近隣の店をいくつかピックアップしてジャンル別に伝えた。こういう時、大和に連れていってもらったレストランでの経験が役に立つ。
仕事中だというのに大和の優しげな微笑みがよぎり、慌てて小さく頭を振った。