エリート国際弁護士に愛されてますが、身ごもるわけにはいきません
「ありがとう。さすがおもてなしの国ね」
沙良が感心したように微笑んだ。
フロント業務でやり甲斐を感じるのは、こうして案内した客から感謝の言葉を直接聞ける時だ。
まだまだ理想とするホテルマンには届かないけれど、日々心を込めてホテルを訪れた人々にもてなしを提供したいと努力している。
デキる女を具現化したような沙良に褒められ、瑠衣は嬉しさを隠しきれずに頬を緩めた。
「恐れ入ります。今の季節ですと表通りのイルミネーションも綺麗なので、お食事のあとなどに少し歩かれるのもいいかと思います。お相手様と素敵な時間をお過ごしいただくお手伝いができましたら幸いです」
「いいわね、東京のイルミネーションは気合が入ってるって聞くわ。ヤマトは仕事しか頭にない堅物だけど、あなたに教えてもらったお店とクリスマスムード満点のイルミネーションで、いい雰囲気に持ち込めるよう頑張るわ」
もう一度「ありがとう」と礼を言い、ヒールの音を響かせて立ち去る沙良の背中を見送りながら、本来なら「いってらっしゃいませ」と頭を下げるべき所で棒立ちになってしまう。
(今……〝ヤマト〟って言った?)
夫と同じ名前を聞き、瑠衣の心臓がドキンと嫌な音を立てる。
沙良は如月法律事務所へ忘れられない人に会いに行くと言っていた。