エリート国際弁護士に愛されてますが、身ごもるわけにはいきません
今でも早く帰宅できる日は家族みんなで食卓を囲み、その日あった出来事を話すなど、コミュニケーションをとっている。
娘の瑠衣に対してはもちろん、妻である依子にも愛情表現は惜しまず、客観的に見てもかなり仲のいい夫婦であり、家族なのだ。
そんな如月家の大黒柱である英利に、なにか大きな病気が見つかったのかとおののく瑠衣だったが、彼は笑って首を横に振った。
「いや、至って健康体だと医者に太鼓判を押されたよ」
「なんだ、びっくりした……」
ホッとすると同時に、恨みがましく父を睨む。言い方が紛らわしいのだ。
「とはいえ、僕ももうすぐ六十になる。そろそろ身の振り方を考えないといけないと思ってね。いつまでも元気でいられるとは限らないのだから」
そう言いながら、英利は隣に座る依子と目を合わせ頷くと、正面の大和に視線を戻した。
「高城くん。僕はね、現役を退いたら残りの人生は妻とゆっくり過ごしたいと思っている」
「先生」
「なにも今すぐではないけど、事務所の後継者くらいは決めておきたい。そう考えた時、一番に頭に浮かんだのは君の顔だった」
真剣な眼差しで話す英利は、父親ではなく弁護士の顔をしていて、瑠衣は申し訳ない気持ちで顔を伏せた。
祖父から継いだ如月法律事務所は、本来ならばひとり娘である瑠衣が継ぐのが望ましかったに違いない。