エリート国際弁護士に愛されてますが、身ごもるわけにはいきません
彼女の口ぶりから、きっと昔の恋人だろうと察せられたが、特に深くは考えずに事務所への道順を案内し、近くの美味しくて雰囲気のいいレストランも紹介したし、サプライズがうまくいくといいと思って送り出した。
しかしその相手が〝ヤマト〟という名だとしたら、すんなり飲み込むわけにはいかない。
嫌な汗がじわりと滲み、固く口を引き結びながら、彼女との会話をはじめから思い返す。
(井口様、久しぶりの日本だって仰っていた。海外に住まわれている?)
フロントのパソコンで表示されている宿泊者名簿の住所の欄には、アメリカのカリフォルニア州と記載されていた。
(たしか大和さんが留学していたのも、カリフォルニアだったはず)
さらに職業欄には〝lawyer〟とある。
(大和さんと同じ弁護士……)
カリフォルニア州は日本列島がちょうどすっぽり入るほど広大で、同じ職業だからといって知り合いとは限らない。
しかし事務所に〝ヤマト〟と名のつく人物がふたりも三人もいるとは考えにくい。
予約欄を見ると、タワー館のスーペリアルームに十日間の連泊とある。
彼女はきっと大和に会いに来たのだ。彼を忘れられず、はるばる遠く離れたカリフォルニアから。
瑠衣は今立っているのが職場のフロントである事も忘れ、ざらりとした嫌な予感に顔を顰めた。