エリート国際弁護士に愛されてますが、身ごもるわけにはいきません
【休暇で日本に来ているの。少し会えない?】
そうメッセージを送ってきたのは、留学中に同じ職場で働いていた弁護士の井口沙良という女性。
幼い頃からアメリカに住んでいたらしい彼女は、優秀だが仕事同様恋愛にも欧米人のような積極性があり、職場でも大和に好意があるのを隠しもしなかった。
一途なのかと言えばそうでもなく、自由恋愛主義で、男と揉めたという話を聞いたのも一度や二度ではない。
沙良に対して女性としての興味が微塵もない大和にとって、アメリカにいた頃から仕事以外ではあまり関わりたくないというのが本音だ。
帰国して一年程は【いつ戻ってくるの? みんな待ってるわ】などと何度もしつこくメッセージが来ていたが、一度【悪いが戻る気はない】とシンプルに返信をして以来、大和は彼女からの連絡を取り合っていなかった。
すると諦めたのか、ここ最近はまったく音沙汰なし。
約三年ぶりに送られてきたメッセージにも同様に返事をしないでやり過ごしていると、彼女は突然職場にやってきた。
長かった髪をバッサリ短く切っていて最初は誰だかわからなかったが、話しぶりでようやく記憶の引き出しから探り当てた。
「JS飲料のM&Aのニュースは見た? うちの案件よ。早くこっちに戻るべきだって大和もわかったでしょう?」
自信に満ち溢れ、己の意見が正しいと疑わない沙良の口調は、仕事上は優位に働くかもしれないが、プライベートで向けられると不快感を覚える。