エリート国際弁護士に愛されてますが、身ごもるわけにはいきません
「ちょっとちょっと! 高城先生はうちの所長の娘さんとご結婚されて、この事務所を継ぐ方なんですから。引き抜きは困りますよ!」
大和と沙良の会話が聞こえていたらしい久保が、余計な情報まで喋りながら沙良に忠告する。
「確かに先生は優秀ですけど、あの可愛らしい奥様がいらっしゃる以上、どれだけ魅力的な条件で引き抜こうとしたところで、先生はここを去らないと思いますよ。だって」
「久保」
止めなければいつまでもぺらぺら喋り続けそうな久保を制し、彼の手にある書類に視線を向けた。
「それは?」
「あっ、そうです。頼まれていた資料をお渡ししたくて探してたんでした」
てへっと肩を竦める久保を冷めた目で見ながら書類の束を受け取ると、大和は沙良に淡々と告げた。
「俺がアメリカに行ったのは、あくまで事業のグローバル化を図る企業にも対応できる力をつけたかったからだ。そもそも向こうで働く気はない。用件がそれだけなら、俺はこれで失礼する。元気で」
「ちょっと待ってよ。せめて食事しながら話を――」
「悪いが、妻が家で食事を用意して待ってるんだ」
一切表情を変えずに返し、そのまま振り返らずにカフェを後にした。