エリート国際弁護士に愛されてますが、身ごもるわけにはいきません
大和は執務室に戻り、先程久保から受け取った資料に目を通す。
現在手掛けているのは、『AI Mind』という小さなIT企業のM&A。
社長の佐藤孝宏は会社を大きくするため買い手側としてM&Aを検討していたが、大和はコツコツ伸ばした業績や優秀なエンジニア揃いの会社に将来性を感じ、逆にもっと大手の企業に譲渡するのはどうかと提案した。
『発想の転換こそ、物事をうまく運ぶ秘訣だ』というのは、大和が尊敬する英利の口癖だ。
人生において彼の座右の銘になっているらしいが、弁護士としての心持ちにも共通しているように思う。
繰り返し聞いた彼の言葉は大和の胸の奥に刻まれ、仕事に詰まると必ず思い出す。今回の案件でも頭をよぎった。
資金力がそこまでない中で安易に小さなIT企業を抱き込むよりも、他業種でも大手と手を組んだほうが伸びると判断したのだ。
目をつけたのは国内の企業ではなく、アメリカの大手製薬会社『Adam』。
近年、AIによる新薬の開発が本格化し、多くの製薬会社が優秀なAIエンジニアを求めている。その需要を逃す手はない。
佐藤は自身の会社を売却することに最初こそ戸惑いを見せていたが、大和の丁寧な説明で今後のビジョンが描けたようで、譲渡側としてM&Aをする決断を下した。
情報漏洩のリスクも考えながら慎重に事を運ばなくてなならず、開示された資料をもとに条件の調整や交渉が行われる。他にもいくつか候補の企業を絞り、徐々に話を詰めている段階だ。