余命8ヶ月。


「その頃母親が男を作ってさ、いい歳して何やってんだって思って口にしてしまった。


その時あいつの口から出てきたのはなんだと思う?『ろくでなしの父親を持つとこんな人間になるのね。』って笑って言ったんだ。

····その瞬間は小戸森拓也のことを言ってるんだと思った。なのに母親は鼻で笑って『まだそんな嘘を信じてたの?』だって。


話を聞くとさ、母親が誰の子かも分からない子を妊娠したってわかったあと、たまたま大学時代の友達だった小戸森拓也に会ったらしくて、母親の事情を聞いて結婚することを決めたって言うんだよ。

ありえないでしょ?たかが友達の為に結婚するなんて。結果、電撃結婚の発表をしたらしいけど小戸森拓也は本当に母親を好きだったらしい。
困っている姿を見てほっとけなかったんだろうね。



小戸森拓也は確かにスターだった。



それは一人の人間としても。なのに籍を入れたそのたった二ヶ月後、小戸森拓也は死んでしまった。

家に帰る途中に運転手が居眠り運転だってさ。

結局、俺は誰の子かもわかんないし母親はそのまま金持ちの男と海外に行って音信不通。

そこからは何か·····頭のモヤがとれなくなってメンバーとも距離を置いた。
アイドルグループなんて活動期間はせいぜい5年程度だしそのあとはバラバラになるんだって逃げた。あいつらに俺の父親の話をもう一度する勇気はなかったんだよね。

小戸森拓也の遺産目当てで息子の俺に近づいてくる女は山ほどいてさ。·····こんなこと言いたくは無いけど女遊びだってしてた。

世間にも大事なメンバーにも俺は嘘をついてたって事実をどうしても言えなかった。メンバーは俺の作った壁を越えないようにしてくれてるんだと思う。」



目標としてた人が見えなくなって自信が持てなくて、自分が誰なのかも分からなくて、奏でて来た曲が歌えなくなってしまったのかな。
< 253 / 306 >

この作品をシェア

pagetop