余命8ヶ月。


それからお兄ちゃんは仕事があると渋々部屋から出ていった。
忙しい中わざわざ怒るためだけに来たらしい。


他の皆さんは夕方までいて4人は同時に帰ると言った。楓ちゃんは名残惜しそうに『また来るから。』私の手を握って微笑んだ。

その顔はプロのカメラマンが撮るものより遥かに魅力を引き出しているように感じた。


朝陽さんだけ残って皆さん帰ってしまった。私は隣を見て質問を投げかけた。


「まだいても大丈夫なんですか? 」

「ん?迷惑だった?」


少しオフモードになった朝陽さんだけど普段と変わらない笑顔だった。


「いえ····迷惑では····」

「寂しかったから嬉しい?僕がいること。」


見透かしたような朝陽さんはイタズラ顔に変わっていた。


「少し·····。それより倒れたあとありがとうございました。お兄ちゃんから聞いて·····」



倒れた時、朝陽さんは駅から外が騒がしいのを感じて出てきたらしい。意識のない私をみつけて対応をしてくれたとお兄ちゃんが教えてくれた。

そして意識が戻ってあったのは今日が初めて。だから改めて感謝の気持ちを伝えた。



「先輩に連絡はした?」



碧音さんとの約束はもう守れない。
先生から話を聞いたあと痛感してしまった。連絡も来ているけど返せないまま。
私は朝陽さんにスマホを渡した。



「どうするの?」


「·····消して貰えませんか?連絡先。
もう無理ってわかってるんですけどどうしても自分じゃ消せないんです。」


こんなこと他の人には頼めない。



「桜音羽っちが本当にいいなら。」

「お願いします·····。」



旅行····行きたかったなぁ。最後って決めてたのにあともう1回って欲張っちゃったから神様が怒ったのかな。
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