余命8ヶ月。
目の前には碧音さんがいた。昨日あんなふうに言ったのにまた会いに来た理由がわからない。
「自己紹介しようと思って。知らない奴の顔なんて見たくないだろうし、とりあえず耳だけ貸してほしい。」
「出ていってください·····!」
思わず自分の予想より大きな声が出てしまった。
けどこれで碧音さんも諦めてくれると思った。相手から拒絶されれば自分だって嫌な気持ちになるんだから。
「ごめん、今日は体調悪い?じゃあまた明日ね。 」
すんなりと病室から出ていったけれどその言葉は信じられなかった。いや、信じてしまった。碧音さんなら明日も必ず来ると。
「大きい声がさっきしてたけど大丈夫ー?」
「先生、部屋を変えて貰えませんか?」
診察のためにやってきた天野先生。もう碧音さんに会う訳には行かないと思って聞いた。
天野先生は見透かしたように微笑んでる。
「本当にいいの?桜音羽さんは後悔しない?」
「後悔····もう手遅れです。あの人に出会う未来を選択してしまった時から私は間違えていました。」
出会ったことすら後悔してしまう。
「彼は後悔してないんじゃないかな。だから今も向き合おうと頑張ってるんだと思う。」
「私は····」
私は無かったことになんてしたくない。でもこれ以上どうすればいいのかな。最後にするべきことは碧音さんと向き合う事?沢山傷つけたけどもう一度しっかり話したい·····「っ····」
そんな私の気持ちは一瞬で砕かれた。
「先生?これって····」
前から右手の震えはあった。もはやそれは日常になっていっていた。だけどこれは初めてだ。口の中に広がる鉄の味·····
「大丈夫、大丈夫だから。」
そんな言葉とは正反対の表情の先生、私の心は息の出来ない深い闇にまた落ちていく。