余命8ヶ月。
3
「俺幸せすぎるんだけど、夢じゃないよね。」
目の前に現れた碧音さんは私を抱えて病室まで戻してくれた。ゆっくり、優しくまるで宝物でも触っているかのように。
「んふふ⋯」
ベッドの横にある椅子に座ってニコニコしてる。初めて会った時も思ったけどテレビとは別人だなぁ。でもこれからは自然な姿を見せるから可愛い姿もファンは知っていくんだ。
「どしたの?」
私の表情が変わったのか質問された。言うのが恥ずかしいな。でも誤魔化せそうにもない。
「私しか知らなかった姿に周りが気づくのが悔しいんです。」
きっと耳まで赤い私は恥ずかしすぎて顔を手で覆った。
━━ギシ━━
病院の古いベッドが音を鳴らした。
碧音さんの両手が私の顔の横に押し付けられている。目の前に、碧音さんがいる。
「可愛すぎるって····。桜音羽に聞いて欲しいことがあるんだけど今すぐ言いたい。言っていい?」
何を言われるのか想像もつかなかった。と言うよりも想像以上のものだったんだと思う。その言葉の後、碧音さんは仕事があるからまた明日と言って病室を出て行ってしまった。
どうして碧音さんはあんなに平然としているんだろう。大人だから?私よりも年上だから何にも動じないんだろうか?
たった一人でいる病室なのに頭の中は碧音さんで溢れてしまっている。言葉だけがリピートされていくけど気持ちが追いつかない。
《俺と結婚してほしい。》
その日の夜は病気のせいじゃなく眠れなかった。夢なんじゃないか、眠ったらこの幸せが消えてなくなってしまうんじゃないか、そんなふうに考えているのに不安よりも幸福感の方が溢れかえっていた。·····だけど返事を考えるとまた胸が苦しくなった。
気づかないうちに眠ってしまった私は不安と幸福感からか久しぶりに不思議な夢を見た。