余命8ヶ月。



「婚姻届ですね。おめでとうございます。」


役所の女性は優しく微笑み声をかけてくれた。




私は碧音さんと〝夫婦〟になった。




あとは碧音さんの待つ家に帰るだけ。けどきっと賑やかだろうな。奏の5人が暮らしているあの家は。


心を弾ませながらお兄ちゃんとタクシーに乗っていると反対の道へと曲がってしまった。


「すいません、右に曲がりたかったんですけど·····」


「桜音羽いまから目を瞑って。」



意味もわからず言われるがまま目を閉じた。碧音さんは今日、家で待っててくれるって言っていたのに。お兄ちゃんはどこに行こうとしているんだろう。



「さ、行こ。」

「ここ····って、」


そこは碧音さんとの思い出の場所。甘いぜんざいを食べたことを思い出した。それに笑いあったことも。

ここは宇喜多さんのお店。



「もうすぐ3月だし、今日は暖かい日でよかった。」


立ち尽くしている私の肩に手を当てお兄ちゃんはお店の扉を開いた。


「退院おめでとう!!」


ゆきちゃんが笑顔でそう言うと私の手を引いて奥の部屋へと連れていかれた。


「雪ちゃん?どういうこと?」


「この部屋の扉を開けてみて·····!」


教えてはくれなかったけど促されて襖に手をかける。この先に何があるんだろう。


━━すっ━━


「え·····?雪ちゃん、これ····」


「碧音さんからのプレゼントだよ。今日までみっちり練習したから任せて!」


わけも分からず準備を始められて頭はぐちゃぐちゃ。だけど触れた瞬間、嬉しさが混み上がっていく。



「こんなことするって聞いてない····。」


真っ白な純白のドレス。


「ぜーんぶ碧音さんが考えたみたいだよ?お姫様にしてあげたいって。」


「それは嘘だよ。協力者がいるんだと思う。」


気づいた私が教えると雪ちゃんはこれでもかってくらいに笑い続けた。



「白いドレスにレースの部分は刺繍で葉を表してるの綺麗だよね。」


この短い時間で用意するのは大変だっただろうって雪ちゃんは驚いている。私も結婚式をするなんて聞いてないしかなりの衝撃だ。


「簡単な式をやったらあとは桜音羽ちゃんの写真を撮りまくりたいんだって。愛されてるね。」


「なんか恥ずかしいね。」


< 281 / 306 >

この作品をシェア

pagetop