余命8ヶ月。
「小戸森さん。時間になったのでスタンバイお願いします。」
「よし、今日もよろしく。」
いつもより優しい言葉をかけると馴染みのスタッフは驚いていた。もっと普段から優しくするべきだと反省した。
前半は平常心で何とか過ごせた。一人でのMC時間は緊張し始めて普段よりも話せなかった気がする。
それでもスタッフは予定通りにマイクをスタンドに設置してドームの景色全体がよく分かるメインステージのさらに真ん中に立った。
鼓動が高鳴るのが聞こえたけど関係者席の桜樹が目に入った。守るべきものが見えた時、驚くほど自分の心臓が静かになった。
そして、口を開いた。
「えー、今からもう配信も始めれたのかな?うん、もう世界と繋がってるみたい(笑)····今日はファンのみなさんはもちろん、俺に少しでも興味のある方、なんならいっそなくてもいいです。ある《ご報告》をこの大きな会場から多くの方にさせていただきたいと思います。まずは·····」
衣装の胸ポケットからあるものを取りだし静かに左手の薬指にはめてカメラの前に手を出すと俺の背後にある大きなスクリーンに映し出された。
会場は甲高い声などではなくどよめいた声が拡がっていた。明らかにファンの理解は追いついていなかった。
「実は今日ここで報告させていただく内容は誰にも伝えていません。なので関係者席にいる元メンバー、そして顔馴染みの記者さんなんかも皆さんと同じ顔をしております笑」
軽めのトークのように話しても誰も笑ってくれない。俺は笑うのをやめて軽く息を吸ってしっかりと伝わるようにマイクに向かって声を出した。
「私、小戸森碧音は10年前に結婚しました。」
さらに唖然としたファン。当然だ。結婚していたことを10年も隠してたんだから。けどここで怯むくらいなら報告するなんて考えない。伝えたいことを伝えるために俺はここに立ったんだ。