Triangle Love 3 ~ Close to you ~
『あのー。大丈夫?ん…?って。カナメくんじゃん!この前ファミレスで会ったよね?』

『うっ…。えっ…?』

『まだ覚えてないの?この間は名前を間違えてたし。』

『そうか…。』

俺は何とか口から音を発した。

意識がぼんやりとしているせいか、目の前にいる人もはっきりしない。

ここはどこだ?

『そんなことよりさ。大丈夫?すごく体調悪そうだけど?』

『健康だ…。』

『明らかに大丈夫じゃないよね?教室の後ろの方の床でうずくまっているんだよ?』

『俺が…?』

『しかもさー。顔色は悪いし。唇は青いし。目は虚ろ。健康な要素がひとつもない!』

『…。』

『とりあえず保険室に行こう?おんぶするよ?あたし、テニス部で鍛えてるし。カナメくんくらいなら背負えると思う。細いし。』

『いや…。俺は…?何を…間違えた…?』

『こりゃ重症だな…。まずは水でも飲もう?落ち着くから!ちょっとまってて!』

そう言い残した女子は、走って教室を出た。

しばらくして、走って教室に戻って来た。

そして、ペットボトルのお茶をフタが開いた状態で俺に渡してくれた。

『…ありがとう。』

『そんなのいいから!とにかく飲んで!深呼吸して!』

俺は床にひじをつけた状態から起き上がり、後ろの壁にもたれ掛かって座った。

お茶を一気に飲んだ。

息を大きく吸った。

『はぁ…。ふぅ…。』

『飲んだ?次はこれ。』

そう言って女子は、飴玉のようなものを俺の口に放り込んだ。

口の中に甘酸っぱい香りが広がった。

『ふぅ…。』

『それ、サプリね。味は微妙だけど、栄養はあるし。よく食べてるんだ。』

呼吸が落ち着いて、視界も良くなってきた。

そうだ、俺は今教室にいる。

あれ、助けてくれた女子は…?

その女子は俺の右側に膝を抱えて座り込み、教室の壁にもたれ掛かっていた。

『あ…。リカさんか。』

やっと助けてくれた相手のことを認識できた。

これだけ至近距離にいて分からないとしたら、本当に病院に行く必要があるけど。

『覚えてたんだね。ほんと、ビックリしたよ。廊下を通ったらさ。誰もいない教室で、あんな風になってるんだから。ちょっと怖かったよ!』

『ごめん、変なところ見せてしまって。』

『全然いいよ。調子が良くない時は、水分をしっかり取って!』

『ありがとう。助かった。その格好…。部活中にごめん。』

リカさんは制服ではなく、ジャージを着ていた。

恐らく、部活中に偶然通りかかったところを助けてくれたようだ。

申し訳ない。

『気にしないでって!あんな状態の人を放ってはおけないでしょ?』

『そうか…。』

『何があったかは聞かないけど、後悔のないように動いた方がいいと思う。あたしも偉そうなことは言えないけどさ。』

リカさんは正面を向いて言った。

俺はそんな真剣な表情をした横顔に向けて、お礼を言った。

『そうだよな…。ありがとう。元気でたよ。後悔のないようにか。』

『そう!もし、また何かあったらさ。こうやって話とか聞くよ!お茶も買ってくるし!』

『…リカさんって優しいんだな。去年、もっと話しておけば良かったよ。』

以前アルバイト先で会った際、1年生の時のクラスメイトだと言っていた。

正直なところ、未だにはっきりとは思い出せていない。

思い出せないからこそ、少し後悔していた。

『そう言ってくれて嬉しいけど。別にこれからでも話したらいいんじゃない?』

『そうだな。そうします。』

『とにかく、今日はもう早退したら?体調には気をつけて!あたし、朝練に戻るね。』

『ありがとう。』

そう言い残し、リカさんは駆け足で教室を後にした。
< 57 / 89 >

この作品をシェア

pagetop