研がれる私/長編エロティックミステリー
決行③



「ねえ…、康友は結婚しようって考えたことはなかったの、今まで?」

「…海外に出る前、そういうこともあったが、結局何となくというか、漠然とだったな。今から思うと…。相手もそんなメンタルだったみたいで、自然と立ち消えになったよ」

「そう…」

「その後、日本に戻って来た数年前にも、一度あった…。運転手仲間の妹を紹介されてさ。その時は、相手の女性がどうのってより、結婚…、自分を拘束することの義務感からってところだった気がする。そんなもんで籍入れたんじゃあ、相手だって不幸だろう。結局、思い切れなかったわ」

「そう…」

正解よ、康友…

そんな結婚、自分からの逃げ道だもの

私のアタマの中には、カレが心の沼でもがき苦しみ、おぼれかけてる姿が浮かんでた…


***


「お前はどうなんだ?結婚とかって局面、全くなかったのか?」

私は今までのことを、正直にそのまんまで長々と話したわ

例の、いきなり無理矢理で結婚式場予約、勝手にドタキャンの打ち明け話にはクスクス笑ってくれたわ

かわいい笑顔で…


***


「…人間が幸せを願う心は善だが、幸せを欲する心は悪に近い。俺にはよう、そう思えてならん…」

「康友…。でもさ、要はその人が抱く幸せの”カタチ”次第だとも思うよ」

「…じゃあ、心を埋めるためだけのものだとしたら、その願う幸せはどうなんだ?」

「うん、そうね…。善じゃないけど悪とも言えず、気休めのようなものじゃないのかしら。でもさ、その虚構を願っても何が幸せなのかな…」

「…」

バースデーを祝う場の会話としては、ちょっとってとこだったけど…

”運命の日”にこういったディープなさり気な会話で来て、それはそれで有意義だった…

素直にそう思ったわ、私…


***


「お前はいい女だ。だが…、あのサイトを通じて出会わなければ、こんなに惚れただろうか…」

「私も同じよ。こういったイカれた出会い方じゃなかったら、あなたとはこんなに激しく愛し合えなかったわ」

「…ベッドへ行くか、ルイ…」

「ええ…。シャワーは後がいいわ」

「よし、じゃあ行こう」

「その前にトイレ行ってくる」

「ああ、なら先に行ってる」

「うん…」

その時は来た…‼

私はトイレの便座に座りながら、スマホのラインでサインを送った

外に待機する石渡へ…






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