セメントの海を渡る女
その8
剣崎



翌日…

「剣崎よう…。ミカのあの眼…、俺には正視できんぞ。たまらんわ。…お前の力で血を通わせてやれないか…」

「会長…、でも一体どうやって…。自分にはどうしてやればいいのか…、よくわかりません」

「…あの子が両の肩で背負ってる、重い荷物を下ろしてやるんだ。己に課した義務という名の重たい、自分を責めるズタ袋のような容赦のない荷物をだ」

「義務…、ですか…。ミカが自分に課した…。会長!それはもしや…?」

「ああ、そうだって、剣崎よう…。”あの境遇”の自分を海外に逃がしてくれた相和会へ恩義を返すという義務をよう…、あの子が自分にな…。その為もあって、遠く離れた異国の地で殺し屋の道を究めてきたんだと思うぜ。なんともな…」

俺の胸はえぐられる思いだった

ミカはそんな思いもあって、あの年で人を消すさだめを選択したと言うのか…

たまらん!

俺は自分自身に意味なく歎き、ぶつけていたよ

...


「具体的にミカへ何をすれば、我々は彼女を救えるんですか、会長…。教えてください!」

「何しろ、その荷物を下ろしてやることだが…。肝心なのは、ミカ自身が自分で納得できてってことだ。”そこ”に導いてやろうや、俺たちがよう…。多少の時間をかけてもな…。その後、あの子は黙ってても変われる。そこにたどり着けば、無意識に自分自らが拒絶していた夢や希望を抱く気持ちも、自然と足元から湧いてくるさ。ミカを、”そこ”に持って行ってやってくれ、剣崎…」

「会長…」

...



会長の言ってる意味は明確に伝わった

ここはあえてじっくりだ

腰を落ち着けて、ミカには自分へのケリをつけさせる

要するに、相和会への恩義を背負った彼女が、その借りを返せたと納得できるところまでアイツを持って行ってやればいいんだ

それの決着が果たせた後、アイツの夢…、役者への道に誘ってやろう…

この日から相馬会長と俺によって、中期規模の”計画”はスタートを切る…

だが…

その1年後、相馬さんと俺は、うかつにもミカが宿す”死角”に、目が入らなかったことを思い知らされる…





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