この愛に猛る!
この愛に猛る/その14
この愛に猛る/その14
剣崎
笑い声をあげているのは来賓だけではなかった
矢島さんも立場を忘れて、腹を抱えながら笑いが止まらない様子だ(笑)
明石田の叔父貴はステージのすぐ脇で、西の御大を隣りにしながら、ひと際大きく口を開けて大笑いしている
司会者でさえ、抑えきれない笑いによって、しゃべり出すタイミングを遮られているようで、参ったなあって表情だぜ
倉橋は何しろ、汗を麻衣に拭かれながら、一貫して照れ笑いだ(笑)
そして、麻衣の母親とミカは…
笑顔で泣いていたよ
...
「…いやあ、麻衣さんには席を盛り上げていただいて、司会者からもお礼をさせていただきます(笑)…。そこで、もうひとつ、お聞きしましょう。先般、優輔さんと西の関係者を歴訪した際、その火傷を負った現場にお二人で行かれたそうですが、それは何故ですか?大変、言いずらいことではありますが、優輔さんにとっては、やはり訪れたくない場所だと思うのですが…」
ふふ、ここは前半の肝になるぞ
麻衣のヤツ、関西の連中にどんな言い回しでくらわすかな
「あのですね、私と優輔さんは、常に真正面から逃げずに生きているんです。彼は辛い思いをした地に戻ることなんか、屁でもないんですよ。それから理由です。彼が、その一生忘れられないような修羅場を乗り越えた現場に、時を経て二人で佇んで、そこでの4時間というものを、この私も可能な限り感じ取って共有したかったんです。で、その廃屋をバックに二人で記念撮影しましたよ。ねっ、優輔さん」
倉橋は苦笑を漏らし、ふんと頷いたわ(笑)
”パチ、パチ、パチ…”
”うーん…”
”ほう…”
”いやぁ…”
ここでは拍手の最中は笑いではなく、感嘆のつぶやきが唸るように交錯し、ウエーブを奏でていた
まあ、麻衣に驚いているってこったろうさ、ふふ…
...
会場内はやや静かなモードに入ったが、むしろ重厚さが加わり、こっちの思い描いた展開になってる
「会長、次は淀の御大からご挨拶をいただきます。いい流れです。麻衣の馴初めでは、万博抗争を脳裏に甦らせ、その和解を改めて認知してもらう演出でした。ここで、御大から関西の連中にこの時勢を睨んだメッセージを発してもらえれば、効果絶大ですよ」
「うむ…。しかし麻衣には、俺も改めて驚かされた。こんな大勢の大物を前にして、あそこまで”語れる”ものなのか…。17歳の娘が…」
矢島さんはゆっくりと首を横に振りながら、信じられんといった素振りだった
…
「ご来席の皆さん、それでは業界ご来賓を代表して、助川太士朗様より、祝辞を承りたいと存じます。助川さま、よろしくお願い致します」
西の御大こと助川さんの言葉は、関西の参列者にはこれ以上ない発信力を有している
いわば連中にとっては、神の声に近い意味を持つといっても過言ではない
その御大が明石田さんに軽く会釈し、ゆっくりとスピーチ台へ向かった
この人が一挙一動をとるだけで、その場の空気が張り詰める
さすがだ
自分に注がれる視線を瞬時にエネルギーへ変換してしまうかのように、80を間近かに控えた老人とは思えないほど、その佇まいは眩かった
...
「…本日来席の皆さんを代表して、私助川が一言ご挨拶させていただきます。まずは、倉橋くん、麻衣さん、この度の婚約おめでとう。二人のご親族、相和会の諸君にも、心から祝意を申し上げます…」
御大の滑舌は相変わらずしっかりしていて、何しろ言葉に人を惹きつける引力のようなものを感じるよ
「…私は麻衣さんに先月、大阪で初めて会うとります。その時、この夏逝去された、相馬さんとそっくりの眼えしとるのに、えらいたまげましたわ。去年夏、相馬さんが突然迎え入れた麻衣さんを、実は遠縁にあたる子だと言うてましたが、相和会では皆、それを鵜呑みにしとると聞いて、そんなアホなと鼻で笑っとりました。ところが、実際そのケモノのような眼を間近にしたら、こりゃ無理ないこっちゃと納得しましたわ…。まるで若い頃の相馬さんとウリふたつじゃった」
確かにあの時の御大は、実に興味深く麻衣の眼を見つめていたな(苦笑)
「…今の麻衣さんの受答えにも、全く感心する限りで、近頃の若いもんよりよっぽどしっかりしとる。一方の倉橋君は、関西とは縁が深く、相馬さんの気質を最も持ち得た豪気な人物であります。この二人が相馬さんの亡くなってすぐ、こうして結ばれたのも何かの導きでっしゃろ…」
この辺りで、来賓方、さあ行くぞだ
「…相馬さん亡き後、相和会は諸々難事を克服し、東西と新たな枠組みを取り決めたのは周知の通りじゃが、これが機となり、今、我が西陣営と相和会はかつてない強い連帯に至っております…」
うん、俄かに空気が変わったぞ
剣崎
笑い声をあげているのは来賓だけではなかった
矢島さんも立場を忘れて、腹を抱えながら笑いが止まらない様子だ(笑)
明石田の叔父貴はステージのすぐ脇で、西の御大を隣りにしながら、ひと際大きく口を開けて大笑いしている
司会者でさえ、抑えきれない笑いによって、しゃべり出すタイミングを遮られているようで、参ったなあって表情だぜ
倉橋は何しろ、汗を麻衣に拭かれながら、一貫して照れ笑いだ(笑)
そして、麻衣の母親とミカは…
笑顔で泣いていたよ
...
「…いやあ、麻衣さんには席を盛り上げていただいて、司会者からもお礼をさせていただきます(笑)…。そこで、もうひとつ、お聞きしましょう。先般、優輔さんと西の関係者を歴訪した際、その火傷を負った現場にお二人で行かれたそうですが、それは何故ですか?大変、言いずらいことではありますが、優輔さんにとっては、やはり訪れたくない場所だと思うのですが…」
ふふ、ここは前半の肝になるぞ
麻衣のヤツ、関西の連中にどんな言い回しでくらわすかな
「あのですね、私と優輔さんは、常に真正面から逃げずに生きているんです。彼は辛い思いをした地に戻ることなんか、屁でもないんですよ。それから理由です。彼が、その一生忘れられないような修羅場を乗り越えた現場に、時を経て二人で佇んで、そこでの4時間というものを、この私も可能な限り感じ取って共有したかったんです。で、その廃屋をバックに二人で記念撮影しましたよ。ねっ、優輔さん」
倉橋は苦笑を漏らし、ふんと頷いたわ(笑)
”パチ、パチ、パチ…”
”うーん…”
”ほう…”
”いやぁ…”
ここでは拍手の最中は笑いではなく、感嘆のつぶやきが唸るように交錯し、ウエーブを奏でていた
まあ、麻衣に驚いているってこったろうさ、ふふ…
...
会場内はやや静かなモードに入ったが、むしろ重厚さが加わり、こっちの思い描いた展開になってる
「会長、次は淀の御大からご挨拶をいただきます。いい流れです。麻衣の馴初めでは、万博抗争を脳裏に甦らせ、その和解を改めて認知してもらう演出でした。ここで、御大から関西の連中にこの時勢を睨んだメッセージを発してもらえれば、効果絶大ですよ」
「うむ…。しかし麻衣には、俺も改めて驚かされた。こんな大勢の大物を前にして、あそこまで”語れる”ものなのか…。17歳の娘が…」
矢島さんはゆっくりと首を横に振りながら、信じられんといった素振りだった
…
「ご来席の皆さん、それでは業界ご来賓を代表して、助川太士朗様より、祝辞を承りたいと存じます。助川さま、よろしくお願い致します」
西の御大こと助川さんの言葉は、関西の参列者にはこれ以上ない発信力を有している
いわば連中にとっては、神の声に近い意味を持つといっても過言ではない
その御大が明石田さんに軽く会釈し、ゆっくりとスピーチ台へ向かった
この人が一挙一動をとるだけで、その場の空気が張り詰める
さすがだ
自分に注がれる視線を瞬時にエネルギーへ変換してしまうかのように、80を間近かに控えた老人とは思えないほど、その佇まいは眩かった
...
「…本日来席の皆さんを代表して、私助川が一言ご挨拶させていただきます。まずは、倉橋くん、麻衣さん、この度の婚約おめでとう。二人のご親族、相和会の諸君にも、心から祝意を申し上げます…」
御大の滑舌は相変わらずしっかりしていて、何しろ言葉に人を惹きつける引力のようなものを感じるよ
「…私は麻衣さんに先月、大阪で初めて会うとります。その時、この夏逝去された、相馬さんとそっくりの眼えしとるのに、えらいたまげましたわ。去年夏、相馬さんが突然迎え入れた麻衣さんを、実は遠縁にあたる子だと言うてましたが、相和会では皆、それを鵜呑みにしとると聞いて、そんなアホなと鼻で笑っとりました。ところが、実際そのケモノのような眼を間近にしたら、こりゃ無理ないこっちゃと納得しましたわ…。まるで若い頃の相馬さんとウリふたつじゃった」
確かにあの時の御大は、実に興味深く麻衣の眼を見つめていたな(苦笑)
「…今の麻衣さんの受答えにも、全く感心する限りで、近頃の若いもんよりよっぽどしっかりしとる。一方の倉橋君は、関西とは縁が深く、相馬さんの気質を最も持ち得た豪気な人物であります。この二人が相馬さんの亡くなってすぐ、こうして結ばれたのも何かの導きでっしゃろ…」
この辺りで、来賓方、さあ行くぞだ
「…相馬さん亡き後、相和会は諸々難事を克服し、東西と新たな枠組みを取り決めたのは周知の通りじゃが、これが機となり、今、我が西陣営と相和会はかつてない強い連帯に至っております…」
うん、俄かに空気が変わったぞ