逆転結婚~目が覚めたら彼女になっていました~
「伊集院さん、心配しなくていいから。嫌な事はハッキリ断ればいい。交際って、心から好きな人とするものじゃないか」
「そうですが…」
伏し目で答える優衣里を見て、鷹人はそっと席を立って傍に歩み寄って来た。
え? なんで傍までくるの?
「良く話してくれたね、伊集院さん」
傍に歩み寄って来た鷹人は、とても暖かい笑みを浮かべて見つめてきた。
え?
こんなに優しい笑顔見せてくれた事、あったっけ?
麗人が驚いていると、鷹人はそっと肩に手を置いた。
「社員が幸せになる事を私はいつも祈っている。仕事も大切だけど、やはりここに来た社員が幸せになってくれる事が一番の望みだよ」
肩に乗せられた鷹人の手から、何か力強いエネルギーを感じる。
「有難うございます。なんだか、勇気が出てきました」
ペコっと頭を下げて、そのまま社長室をでた麗人。
「…父さんの手…あんなに暖かい手をしていたんだ…」
鷹人が置いた肩にそっと触れた麗人。
麗人は実は鷹人の息子である。
本当の名前は沙原麗人(さはら・れいと)だが副社長になる為に、全く関係ない一社員として勤務する為、母親の旧姓である九条を名乗っている。
この事実を知る人は誰もいない。
住まいも別々で、九条家は代々伝わる弁護士一家だったがある代から医師家系に変わり、現在も財閥の誇りを保ち大きな屋敷を構えSPを雇っているくらいだ。
麗人は毎日送り迎えをしてもらっているが、会社から離れた場所で降ろしてもらっている為、誰にも気づかれていない。
社長の子供だとバレないように、社長への届け物は社員に任せているのだ。
書類を届けて麗人が戻ってくると、ツカツカと文彦が歩み寄って来た。
「優衣里、なんで電話に出ないんだよ」
お前の電話なんかに出るわけないだろ!
内心そう思いながら、麗人は優衣里の席に座った。
「おい、なんだよ無視かよ! 俺が何かしたのか? 」
うるさい男だ。
このうるさい男のどこが、優衣里さんは気に入っていたのだろうか?
とりあえず仕事しないと。
優衣里さんの仕事は…そうそう、これこれ。
パソコンを開いて作業ファイルを開けた麗人。